知ってよかった!住まいの知識

プラス1のある家

文:笠嶋 泰(大同大学名誉教授)

それぞれの家族がそれぞれの家族らしく暮らし、その住まいもその家族らしい「プラス1のある家」とは、どのようなものでしょうか。その具体像を探るため、27年間続けられている「すまいる愛知住宅賞」の受賞作品を対象に、受賞した作品が「どのようなことを住まいづくりのテーマとしているか」、また「テーマを実現する方法としてどのような方法を採用しているか」を調べました。

その結果、図1のごとく、テーマは「(1)近隣生活への配慮のある家」、「(2)生活提案のある家」、「(3)空間提案のある家」、「(4)環境提案のある家」、「(5)景観提案のある家」の5つに分類(さらに細かく分類すると14に分類)され、そのテーマに沿ったさまざまな提案のあることがわかりました。ここでは、その実現方法の幾つかを紹介しますので、「プラス1のある家」づくりの参考にして下さい。

住まいのプラス1グループとその内訳

近隣生活への配慮のある家 事例4題

故郷での高齢者の一人暮らしの家(図2)

子供と一緒に暮らすため、やむを得ず知合いの沢山いる故郷を離れる話を良く耳にします。しかしこの事例は全くその逆の「故郷での高齢者の一人暮らし」の事例です。

H23年受賞作品「母の家」
図2「道と室内とをゆるやかにつなげた住宅」
高齢者の一人暮らしがともすると内に籠り勝ちになることへの心配から生まれたこの家は、「周囲の人々とゆるやかなつながりのある、街に守られ、街に抱かれる暮らしこそが一人暮らしの高齢者にとって安心できる暮らしであろう。」という考えのもとに設計されました。道路に面した大開口や低い軒先、玄関を兼ねた土間、その土間に面した縁側のような上がり框、そして道行く人の誰もが注目する屋根の上の緑等などが、街に守られ、街に抱かれる仕掛けです。
(H23年受賞作品「母の家」)

道と住居内との間に気配の伝わる事例(図3)

最近の日本の住宅は、昔と比べると、外に対し閉鎖的になりました。プライバシーの侵害を守ることや、省エネのため窓を小さくした結果です。住まいを閉鎖的にし過ぎますと、道は活気を失い、時には防犯上の問題を引き起こします。家は、適度に家の前の道路と交流できることが必要です。

H22年受賞作品「海東の家」
図3「道に気配の伝わる中庭型住宅」
一般的に中庭型住宅は、家の周りを外壁で囲み込み、外に対して閉鎖的です。しかし図3の事例は、一般的な中庭住宅とは異なり、壁の高いところに窓が設けられています。アプローチの正面に見える土間の作業場も外から様子がうかがえます。

中庭を通り抜け、玄関のある広間に入ると一段高い板の間があります。先ほどの窓はこの板の間の窓でした。外を見ることができるとともに、道からは覗き込まれる心配がありません。道からのプライバシーを守りながら、道とのコミュニケーションを図っている事例です。
(H22年受賞作品「海東の家」)

表通りと路地で結ばれた隠れ店舗のある事例(図4)

H27年受賞作品「安城の店舗をもつ家」
図4「路地で結ばれた隠れ店舗のある事例」
住宅は「庭」と「住居」との配置の仕方で「外庭型住宅」と「中庭型住宅」とに大別されます。日本の住宅は庭が住居を取り囲む「外庭型住宅」です。この「外庭型住宅」の「住居」部分は庭に対して開放的にし、庭は道に対し閉鎖的とするのが一般的です。

この事例は表通りに開かれた路地の奥に茶道具を売る店舗のある「外庭型住宅」です。お店と客室は静かな裏庭に面し、隠れ家のようですが、そこに集う人々の楽しそうな交流が容易に目に浮かびます。
(H27年受賞作品「安城の店舗をもつ住宅」)

できたての戸建住宅なのに近所づきあいの発生している住宅(図5)

敷地規模75坪前後の戸建住宅が並ぶ住宅地に建つ、設計者が「ソトマ」と呼ぶ共用の庭を囲む3軒の独立住宅の計画です。75坪程度の敷地規模の住宅地は、道路側は駐車場で占拠され、庭は意外に小さく、かつ外に対し閉鎖的な住宅が建つのが一般的です。

H28年受賞作品「ソトマで育てる、ソトマでつながる」この3軒の住宅が建つ周りの住宅も、駐車場や直擁壁が目立つのに対し、この3軒の家は開放感に満ち、緑の多い事例です。3軒の間には3軒を隔てる塀がなく、3つの庭のレベル差も緑の斜面とされているためです。3軒の居間やDKは、この広々とした設計者が「ソトマ」と呼ぶ緑に面し、家の中とソトマとは極めて親密に連続しています。

H28年受賞作品「ソトマで育てる、ソトマでつながる」
図5「塀のない3軒の戸建住宅の事例」
設計が入居予定者参加型で進められたため、入居当初よりコミュニティが生まれ、子供たちは昔からそこに住んでいた子供のように近所の子供たちと遊びに夢中になれる、他の計画でも参考にしたい貴重な事例です。
(H28年受賞作品「ソトマで育てる、ソトマでつながる」)

生活提案のある家 事例4題

「好き」が居間を彩り、暮らしを彩る家(図6)

H24年佳作受賞作品「おもちゃ箱」
図6「好き」が彩るステージ(居間)のある事例
1階には居間やDK、ユーティリティがあり、2階は個室群で構成された一般的間取りの住宅です。ですが、1階の真ん中にある居間と中庭テラスを、家族の「好き」の収納棚やギャラリー、台所、ユーティリティがグルっと囲んでいるところが、一般の間取りと異なります。

自転車や裁縫を始とするたくさんの趣味を楽しみながら生活し、たくさんの思い出のモノを残していくことを大切にしている建て主のための、家族それぞれの「好き」なモノ・コトに囲まれたおもちゃ箱の中にいるような暮らしを目指した住まいです。
(H24年佳作受賞作品「おもちゃ箱」)

腰壁と垂れ壁とで空間を繋げたり切ったりする事例(図7)

H27年受賞作品「羽根北の家」
図7「腰壁と垂壁で開閉される2階空間」
この家の特徴は住居前に広がる公園とシームレスにつながる1階空間にもありますが、腰壁と垂れ壁とで繋げながら分割する2階の空間構成にあります。

日本住居は欄間、商事、襖等で空間と空間を繋げたり切ったりしてきました。しかし、この住宅は古来の方法と全く異なる方法、すなわち「腰壁と垂れ壁」及び「立位、座位、臥位」等の行為を組み合わせることによりオープンな空間やプライベートな空間を創り出すのです。
(H27年受賞作品「羽根北の家」)

ワンルームの家を家具で領域化した事例(図8)

H17年受賞作品「二人の家」
図8「可動間仕切りで居間、食堂、寝室が
領域化されたオープンな家」
図11が部屋と部屋とを中庭で区切りながら空間同士をつなげる事例であるのに対し、図8は、家の南側をワンルームとし、そのワンルームの中を家具等で領域化し、居間、食堂、主寝室、副寝室を確保した事例です。

人の通る通路が、写真左の壁の裏側にもう一つ確保されていますので、ワンルーム内をいたずらに通過することがなく、各コーナーの領域性は一層強固なものとなる一方、家全体の気配はどこにいても伝わってきます。
(H17年受賞作品「二人の家」)

異なるライフスタイルの暮らす集合住宅の事例(図9)

H26年受賞作品「Dragon Court Village」
図9「家の中を街の家々のような
小箱で構成した家」
木造のキュービックの塊が平面的にも断面的にも微妙にズレながら空中に浮く。そのキュービックと1階基壇の床との間に変化に富んだ外部空間が生まれる。そこに流れる風は誠に清々しく、集合住宅の外部空間に居るとは思えないほど気持ち良い。

このことに加えこの事例にはもう一つ特筆されるべきことがある。異なるライフスタイルを持つ人々が暮らす集合住宅であることです。

一般的に集合住宅は同じような世代の同じような階層の人々が住む。同じ立地、同じ間取り、同じ程度の家賃の住宅に住む人々だからである。これに対しこの事例は各住居にSHOPが付随されているため、多様な人々が住む集合住宅となっている。訪れた時、既に「八る百屋さん」と「ネイルア-ト」のお店が開かれていました。
(H26年受賞作品 「 Dragon Court Village 」)

空間提案のある家 事例5題

中庭で、内と外、内と内の連続化を図った事例(図10)

図10は、片側4車線の国道からの騒音や近くからの覗き込みを考慮し、平屋建ての中庭型住宅とした住宅です。若夫婦と子供の住むこの住居は、必要最小限の部屋しか確保されていません。住居全体はコの字型のワンルームとされ、中央は芝生の中庭とされています。

H17年受賞作品「GONTAGON」1 H17年受賞作品「GONTAGON」2
図10「部屋と部屋を切りながらつなげる中庭」
連続する内部空間がコの字型に2回折れ曲がっていることと中央の中庭とが、住居内のそれぞれの空間をそれぞれのコーナーとするとともに、それぞれの空間を穏やかにつなげています。
(H17年受賞作品、「GONTAGON」)

室内を繋げながらほどよい距離を確保した事例(図11)

 H21年受賞作品「木舟」
図11「部屋間がくびれながらつなげた事例」
図11は、祖父母の住み慣れた土地に祖父母と若い孫夫婦の4人で暮らす家です。

設計時、祖父母と程よい距離を確保することに多くの時間を費やしたそうです。各室は中庭や吹き抜けでそれぞれ独立性を保ちながら、その中庭や吹き抜けで互いの気配を感じられる仕掛けとなっています。
(H21年受賞作品「木舟」)

親の工場の骨組みを活かした息子夫婦の家(図12)

 H25年受賞作品「工場から家」H25年受賞作品「工場から家」
図12「減築された南側と伸びやかな内部空間」
かつて両親が営んでいた鉄工所を息子夫妻家族の住まいとした事例です。1階は階高5m。油の染み付いた柱やデッキプレートが両親の歴史を伝えています。大きなスケールとしっかりした鉄骨のフレームを住まいづくりの格好の資産と考え、それらを活かすことが図られました。鉄工所であった建物は外に対して閉鎖的でしたが、南側の鉄骨のフレームを残しながら減築され、開放的な家に生まれ変わりました。高い階高はそのまま活用され、一般的な住宅では得難い高い天井の伸びやかな内部空間が作り出されています。
(H25年受賞作品「工場から家」)

街中で眺望を楽しむ事例(図13)

H17年受賞作品「都心の深遠な静寂」
図13「眺望を楽しむ都心の家」
名古屋市内の中心地に建つこの家は、中庭型の住宅ではなく、一般的な外庭型の戸建て住宅です。しかも、庭がないにもかかわらず、室内から外を楽しむことができます。外から中を覗おうとしても、外側のガラス格子は透けていますが、二重目のガラス戸の内側は見えません。逆に中からは、外の様子が心行くまで楽しめます。遮音性能の高いガラス戸を使用しているため、都市の喧騒は全く聞こえてきません。
(H17年受賞作品、「都心の深遠な静寂」)

家の中から自然しか見えない事例(図14)

H24年受賞作品「UNOU」1 H24年受賞作品「UNOU」2
図14「周辺の住宅が見えないように工夫された事例」
敷地は、住宅の建ちならぶエリアと畑であるエリアが斑状に混在した一角にあります。周辺は西側になだらかに傾斜し、敷地の西側には放り出された様な廃線が隣接しています。

敷地の西側と東側の一部が開け、残りは住宅が建ち並んでいます。

建物の窓は、この開けた西側と東側とにしかありません。しかも、西側の窓は1階分の高さの横長の窓であり、東側のそれは幅の狭い3階分の縦長の窓です。残りの二辺は壁となっており、室内からの視線は東側と西側に向き、視線の先は自然しか見えない仕掛けとなっています。結果的に、周りに住宅があるにもかかわらず、自然の中に暮らしているように見え、外から見た建物の姿も、生活感を感じさせない壁と屋根が多くを占めることにより、自然の中に存在しているように見えます。
(H24年受賞作品「UNOU」)

環境提案のある家 事例1題

いろいろな環境提案のある事例(図15)

H22年受賞作品「松河戸の家」1 H22年受賞作品「松河戸の家」2
図15「いろいろな環境提案のある環境学者の家」
環境学者の施主と設計者が協働して様々な環境的提案を盛り込んだ住宅です。基礎をボイドスラブという構造とし、そのボイド管に外気を送り込み、冷えた空気を室内に送るクールチューブ方式を採用したり、南面のガラス窓に設けたロールスクリーンの上部に穴をあけ、温まった空気がここから天井を伝わりハイサイドライトで排出される仕組みとなっています。四角いキューブを傾けた独特の形態は、日射を遮る効果的な庇をつくるとともに、室内の空気を流れやすくするためのものでもあります。
(H22年受賞作品「松河戸の家」)

外観・景観提案のある家 事例4題

家の外壁を湾曲させ緑を確保した事例(図16)

H25年受賞作品「まちに森をつくる家」1 H25年受賞作品「まちに森をつくる家」2
図16「壁を湾曲させ家の周りに緑を確保した家」
この家の敷地の三方は隣家が迫り、その隣家の窓はいずれも敷地側を向いています。敷地境界に沿って一般的な矩形の建物を建てると、隣家の窓と面と向い合うことになってしまい、プライバシーや開放性が損なわれてしまいます(図16左上参照)。

そこで設計者は、建物を45°回転させるとともに建物の形をひし形とし、さらに外壁を内側に湾曲させました。こうすることにより隣家との間に距離を保ち、庭に多くの緑を植え、プライバシーを確保しながら開放的な家を実現しました(図16左下参照)。
(H25年受賞作品「まちに森をつくる家」)

塀の外側に緑を配置した外庭型住宅(図17)

H28年受賞作品「透明な軸線」
図17「高い塀の外側に緑を確保し周辺調和を図った事例」
水田が広がる市街化調整区域の端にある100坪ほどの敷地に建つ住宅です。軸線の1つを伊吹山に向けた建物と境界よりセットバックした木塀とにより、4つの庭が出現します。1階の各部屋はこの4つの庭の中の2つの庭に囲まれ、開放的です。境界よりセットバックした木塀の外側は緑の空間としも機能し、建物外観と相まって家は風景の一部となります。

開放感やプライバシーを確保しながら周りに緑を提供するセットバック木塀のある家は優れた新しい設計方法の事例です。
(H28年受賞作品「透明な軸線」)

高い塀の上から気配が伝わる外庭形式の事例(図18)

H27年受賞作品「Secret Garden」
図18「気配が伝わる中庭側住居のような外庭型住宅」
世界の住宅は中庭型住宅と外庭型住宅の2つに大別されます。日本の住居の大半は、住居の周辺に庭を配置した外庭型住居が大半を占めます。

この外庭型住居の内、高級なものほど道や隣地沿いに立てられる塀は頑丈で高くなり、外から中をうかがい知ることができなくなります。結果的に、高級住宅地の多くは中の気配をうかがい知れないばかりでなく、外の気配もなかに伝わりにくくなり、場合によっては怖い感じを受けさせることもあります。

図18の事例は、擁壁を兼ねた高い塀が住居の庭を囲んでいます。結果的に道路沿いはこの擁壁を兼ねた高い塀が面し、生活感は外に溢れ出しません。かといって、あの高級住宅地の閉鎖的な道とは異なります。

高い塀の対角線の向こう側を住居部分とし、こちら側の庭部分は対角線上の堺から高い塀に向かって傾斜した庭となっているため、庭の気配が道路に伝わるからです。
(H27年受賞作品「Secret Garden」)

家の中に駐車場を取り込んだ集合住宅(図19)

H21年受賞作品「クレイタスパークシリーズ」
図18「駐車場のない集合住宅」
都市の景観を台無しにしているものの代表例として、看板と電柱が挙げられます。住宅地では、これに駐車場が加えられます。特に、一棟建てのアパートの場合、ところ狭ましと置かれた車が煩雑さを一層強めます。

それに対し、このアパートの前には車の姿がありません。駐車場が一階住民の住居内に確保されているからです。

車が何よりも大切な人々の入居を想定して計画されたアパートですので、車を外に置くなど考えられないことなのです。

住棟前に、ところ狭ましと並べられた駐車場がないだけで、このアパートのまわりにゆとりが生まれています。
(H21年受賞作品「クレイタスパークシリーズ」)

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