各種イベント・コンクール

すまいる愛知住宅賞 (第37回)
名古屋市住宅供給公社 理事長賞
芳野の住宅

築20年が経過した、プレキャストコンクリート造住宅のリノベーション。
住宅における水回りはしばしば「ユーティリティ」と称される。そこでは生活を支えるための合理性や効率性が重視され、トイレ、浴室、キッチンはそれぞれ独立した機能空間として計画されてきた。
一方で水回りにはこうした機能分担だけでは捉えきれない“密かな役割”も存在する。例えばトイレで漫画を読む人もいれば、浴室で子供と絵具遊びをしたり、キッチンをスタンディングデスク代わりにすることもある。
本計画は、水回りが持つこれらの役割を引き出し、ユーティリティからポリバレントな存在へと更新する試みである。
ポリバレントという言葉は日本の現代サッカーに由来し、本計画においては、単に複数の機能を併せ持つことではなく、周囲との関係に応じて役割を変化させながら、住宅全体の振る舞いに作用するあり方を意図している。 トイレは子上り(デン)となり、浴室は内外をつなぐ土間となり、キッチンはDIYや工作の場となる。時に水回りの象徴である便器や浴槽は姿を消し、一方で空間を閉じれば一般的なトイレや浴室としても機能する。水回りは用途を固定された機能空間ではなく、小面積でありながら住まい全体の使われ方を調整するポジションとなる。
その結果、住宅内の用途区分は緩やかに溶け合い、暮らし方に応じて空間の輪郭が更新され続ける。換言すれば、空間の流動性という現代建築のトピックスに対して、どちらかというと阻害要因だった水回りが、むしろそれをアシストをする存在になり得るのではないかと考えている。

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設計者:水谷夏樹建築設計事務所 水谷 夏樹

講評:審査委員 石井 隆司

構造的制約の大きいプレキャストコンクリート造のリフォームで、本作は水回り改修という単焦点の課題に対し「多義的な場へ転化」というアプローチが興味深い。施主自身の提案でもあり、施主が水回りメーカー勤務という背景も試みに整合性を与えている。見落としがちであるが、水回り以外の内装や建具、仕上げ、納まりも丁寧に詰められ、自由度の低い構造下でも美しさに妥協しない設計姿勢が高く評価できる。

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