各種イベント・コンクール

すまいる愛知住宅賞(第34回)
佳作
鳴海の家

田畑だったこの場所が住宅地として開発されたのが約70年前、150坪ほどのゆったりとした区画で緑豊かに整備された街並みが大きな変革の時期に差し掛かっていた。ひと区画を3~4つの宅地として分け、その乗り入れの為に並木も切り倒され始めている、そのような土地での計画だった。

近くには小さな稲荷神社とポケットパークのような緑の居場所があり、ベンチに座りひと休みしながら世間話をする人の行為を、懐かしく、微笑ましく感じていた。ただ、建ち始めている住宅は、どれも通りに対してそっぽを向いた表情だった。建主は、ヴィンテージ家具が好きな若い夫婦で、要望は多様な生活シーンに合わせ、家具配置を変えながら、日々豊かに暮らせる住宅を求めていた。はじめに並木への視線の抜けを確保するために、通りに対して斜めの開口を用意し、同時に通りや隣地に正対する部分を壁としてプライバシーを確保した。その過程から家具配置などがしやすく、空間の優劣が少ない八角形が浮かび上がり、それを二つ組み合わせた。

斜め方向の開き方は、各居場所の必要性に応じて適正にコントロールし、多様な眺めとリズムが得られる回遊性の高い動線とした。この骨格が浮かび上がったとき、数年前に夕立のなか訪れた、堀部安嗣先生の「桜山の家」の力強くそして人をすっと呼び込むような柔らかな感覚を思い出していた。その感覚を取り込みながらも、ただ、過去の並木通りを再現するのではなく、日常の灯りに彩られ、角の取れたその骨格がこの地でしかない街並みの記憶と、並木と住宅との新しくも柔らかで、曖昧なつながりを生み、以前とは違う形でお互いのポテンシャルを高められるはずだと考えた。

この住宅があることで、この道を歩く人や近くに家を建てようとしている人、すでに住んでいる人の意識が変わり、この通りに気持ちが向かい、そこを通る人に気持ちが向かい、住んでいる人と道行く人とが、新しくも懐かしく感じる、そのような居場所を生む、小さな手掛かりとなることを願っている。

応募時のパネルはこちら(PDFファイル)

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設計者:一級建築士事務所 neie/畠山 博敏

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