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すまいる愛知住宅賞 (第29回)
住宅金融支援機構東海支店長賞
間の間の家あいのまのいえ

「間の間」の家 −自立した高齢世帯のための住宅−

地方都市の郊外に建つ高齢夫婦のための住宅である。夫婦の生活空間の他に、同市内に住む息子との近居のためのアトリエを備えている。近年、高寿命化が進み、高齢者がアクティブシニアとして注目される中、引退後の第2の家を求める動きが目覚ましい。住宅も、子育て世帯向けの一家団欒型から高齢世帯向けの新たな在り方を模索する必要がある。

「間の間」の家のスタディは、高齢世帯の個人の独立性を住環境として構成するところから始まった。各個人が個別に寝室を持ち、必要に応じて共用部にやってくる「個室群住居」である。夫婦とたまにやってくる息子はそれぞれに異なる風景を眺める個室を持ち、1日を過ごす。

個室を繋ぐように木架構を掛け渡した「間の間」は、家族の協働のためのスペースではなく、各個室の拡張空間である。父は個室でパソコンを触り、「間の間」でテレビを見て、個室で寝る。母は個室でテレビを見て、「間の間」でお茶を飲み、個室で眠る。息子は親の様子を見に訪れては、個室と「間の間」を一体にしたアトリエで仕事をし、ロフトで眠る。
個室を雁行させることで、各々の活動範囲が交わるのではなく隣合う関係をつくる。「間の間」を介して家族がささやかに繋がる、自立した大人たちによる住宅である。

個室は各々のニーズによって性格付けがされている。シンプルでミニマルな父の間、ゆったりとした和室の母の間、来客も想定される息子の間は木繊セメント板と土間によって外部的に設えた。父の間は北面に広がる葡萄畑を望み、母の間は中庭に面して、息子の間のロフトは隣家の庭を借景する。それぞれに仕上げられた個室群に対し、「間の間」は木架構とラワンの素地の現しによる素朴な木質空間とした。

個室の屋根と屋根を点で繋ぎ掛け渡した「間の間」の天井面は緩やかなHPシェルを描き、繊細な木架構に差し込む光に変化を与えている。ガルバリウムで包まれた外壁面からは「間の間」の木質空間が顔を出し、家具や建具によって表情をつくっている。
正確に均等な区画の2階屋が密実に並ぶ住宅地で、小屋のように個室が連なる「間の間」の家は、その小ささ故に異質な存在感を放っている。

応募時のパネルはこちら(PDFファイル)

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設計者:MARU。architecture/高野 洋平・森田 祥子

講評:審査委員 松原小夜子

公室と私室からなるnLDK型の住まいは、子育て期を前提としてきたが、近年の長寿化や晩婚化などによって、大人同士がともに暮らす「大人同居期」が出現しており、これに対応する住まいのあり方が問われている。「間の間の家」は、こういった大人同居期の住まい像を模索した意欲作である。
日本的な「間」概念の現代的空間化により、個々人の「間」を確保しつつ、それらを「間の間」という緩衝空間によってゆるやかに繋げ、つかず離れずの程よい関係性を生み出している。

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