各種イベント・コンクール

すまいる愛知住宅賞 (第29回)
愛知県知事賞
愛知県森林協会長賞
まちに架かる6枚屋根の家

名古屋市名東区に建つ夫婦と子供の3人家族のための住宅。
周囲は住宅街であり前面道路は通学路なため、小学生や近隣の奥様方がよく通りかかる。この地域は緩やかな丘陵地帯のため、ほとんどの宅地は平坦な宅地地盤を盛土によって造成しており、塀を設けていることと、手前にカーポートを配置して奥に住宅を建てる配置計画も街と生活に必要以上に距離を生んでいるように思われた。

この敷地では道とすり合わせるようにランドスケープを作り、その地面の上にひらひらと折り重なるように6枚のHPシェル屋根が架かる。
それぞれの屋根は敷地中央部に向かって高く外縁部に向かって軒が低くなるような集まり方にし、生活の中央に広がりを持たせながら周囲のまちに対してヒューマンスケールな軒下空間をつくるようにした。

1つの屋根面の端点4点のうち最高点と最下点を結ぶラインは対角線を成し、そこが緩やかな谷になり水の道となることで雨水の流れを導いている。それ以外の2つの端点が跳ね上がることで折り重なる屋根の合間に空間ができ、光と風が通り抜けて内部に明るさをもたらしている。緩やかな周囲の地形に沿うようにカーブするこの屋根面によって屋根の下に地形のような空間の勾配がうまれている。

軒下空間があることで生活における内部と外部に緩やかな連続性がうまれ、内部・外部・半外部を横断した生活が展開される。互い違いに配置された庭は、レベル差のない周囲との連続性と相まって小さな公園のような空地環境となり、この家へのアクセシビリティを高めている。

工事中から近隣の奥様方や小学生が興味深そうに話しかけてくることがよくあり、その中には竣工後に住まい手にも訪ねてくる方がいた。庭木が気に入って、その方は今度自分の庭にも同じ木を植えるのだそうだ。

本誌の撮影中にふと合い向かいの2階建ての家を見ると全面足場が架かっており、外壁を白っぽく塗装中であった。勾配を持つ街路や盛土された隣の畑などの複数の地盤面に応答してそれらをつなぎ合わせるこの土地が、住まい手の生活を通してやがて周囲との関係性をゆっくりと再編集していくのではないかと考えている。

応募時のパネルはこちら(PDFファイル)

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設計者:studio velocity 一級建築士事務所/栗原 健太郎・岩月 美穂

講評:審査委員 久保田英之

閑静な住宅街の角地にこの住まいは建っています。大きな曲面を描いた6枚の屋根が唐傘をまとう様に連なり、住まいを優しく包み込む。
内部空間も浮遊した屋根の下から気持ちの良い光が注ぎ込み、小さな空間の分節が巧みに庭を取り込みながら広がっていく。それにしても、この住まいの魅力は、通り掛かる人々に住まいと公共空間を拒絶することなく呼応させている事だ。
“つなぐ”ことで、様々な可能性と魅力を見い出したこの住まいは大きな評価に値する。

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