各種イベント・コンクール

すまいる愛知住宅賞 (第36回)
UR都市機構 中部支社長賞
多角形の中庭のある家

敷地は50年以上の歴史を持つ名古屋圏のニュータウンにある。夫は在宅ワークをし、妻に肢体障害のある夫婦からバリアフリーの中庭のある平屋を求められた。通りに面して庭を持つ住宅が一様に建つ典型的なニュータウンの街並みに中庭のある家は多くは見当たらない。高齢化が進むこの地域に永住を決めた夫婦の為に、中庭のある家がもたらす自然を身近に感じる居心地の良さや安心感のある暮らしと同時にこの地域とささやかな繋がりを持ちながら共に暮らしていることが感じられるような環境を提供したいと考えた。外部に対して適度な距離感と融和性を持つ環境だ。

そこで中庭にありがちな中心性を排除し、通りと中庭のふたつの外部に対して均質に窓を設け、外部と外部の狭間に住まうような空間を作ることとした。窓の大きさや位置は、プライバシー性や防犯性を考慮しながら周辺の緑や空や地との関係性を作る為に注意深く設定をした。そして内外が等価な居場所となることを意図して垂木をはね伸ばし、内外に渡り同一素材で覆われた軒下を作った。軒下の前庭にはキッチンからひと続きのカウンターを作りベンチを設えた。それは向かいの緑道のベンチに呼応しており、地域の人と井戸端会議の場となったり、老後にコーヒースタンドを構えるなどまちに生活領域が拡張することを想定している。通りからふたつの開口を通して奥にもこの住宅の屋根や外壁が見える。内外が重層化するファサードは街並みに奥行きを与え、排他性を回避している。

回遊できる内部は、渦巻き形状による天井高さの違いや、内外の関係性を利用して穏やかに分節して居場所を作った。夫婦は思い思いに過ごすことができ、同時に中庭を多角形とすることで生じた角度をもった壁が次の空間へと連続することで一体感も共存できる。こうした完結しすぎない空間構成や内外にわたる繋がりは、自然やまちや人といった関係性にたいして、暮らし方に応じた豊かな選択肢を与える。

応募時のパネルはこちら(PDFファイル)

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設計者:株式会社川島真由美建築デザイン/川島 真由美

講評:審査委員 井澤 幸

一言で表すと暮らし手やまちへのやさしさにあふれた住まいである。
多角形の中庭を住宅のほぼ中央に配し、まちへと繋がる前庭に挟まれた空間がこの住宅の核となるキッチンである。肢体障害をもつ妻にとって、キッチンに居ることで、移動の負担を最小限にして、中庭越しに夫の気配を感じ、前庭や窓越しのカウンター、屋外ベンチによってまちとのつながりを意識できる。このカウンターを利用して、老後にコーヒースタンドをひらく構想もある。
高齢化の進むニュータウンに建つ住まいとして、長い年月を経て、キッチンからまちへのささやかな広がりが、住み手とまちにゆとりある暮らしをもたらしてくれることを期待したい。

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