すまいる愛知住宅賞 (第36回)
名古屋市長賞
House & Office SH 在と材と財と庫
愛知県名古屋市で約 50 年続く工務店の新事務所兼住宅の計画。施主は、多くの工務店や材木屋がそうであるように これまでの営みから取得した使用のめどはないが捨てるに捨てられない大断面の在庫木材を大量に抱えていた。それらは、不均一さや樹種の不明確さから、大断面を持ちながらも気軽に構造材に使用できないことが多い。これらを都市に眠る資源と捉え、新たな価値を見出す使い方ができれば、新しい循環が生まれるのではないかと考えた。
敷地周辺は1階に店舗や事務所などの商工の機能、2階以上に住機能をもつ構成が多く見られる地域であるが、大きなショッピングモールの台頭などにより近年廃業している場所も多く、2 階などに居住しているにも関わらず、まちに面するグランドレベルでは、いたるところでシャッターが閉まっている。長年この地に暮らす施主家族は、町づくりの重責を担う工務店として、開かれた町並みの形成を目指すステートメントとしての建築をつくりたいと希望していた。本計画では、建物内における商工住の明確な線引きをなくし、商工および住の空間が分断することなく、それぞれ町に対して接続しながらも適度に距離感を調整できるようなあり方を目指している。具体的には、在庫木材を保存された長さ形を極力残したままで、構造ブレースの役割を果たす斜材として使用する。これらにより必要な構造耐力を満たすことで、短辺方向に極力不透明な構造壁を出さず、前面道路から透明度の高い内部空間となりながらも緩やかに商と住の空間を分節していく。保存されていた在庫木材の寸法を定数として扱い、変数的に階高や平面寸法を調整するように設計していった。
倉庫に眠る在庫木材やシャッターの閉った奥にある空間など都市には目に見えないものの容積や気積であふれている。それらを表出させる計画は、資源の好循環や町の更新を促す可能性 があり、開かれた新しい町の風景が生まれるのではないかと考える。


設計者:1-1 Architects/神谷 勇机 後藤 唯
講評:審査委員 北川 啓介
長年の営みに培われた知恵と技術を背景に、土地に深く根差した拠点の在り方を力強く提示している。通常は使い道が限られる素材を新しい役割へと転換し、建築全体の骨格へと昇華させた点に独自性がある。まちから垣間見える住宅内部を視覚的にも機能的にも開放的に扱い、歩行者や近隣に活動の気配を自然に伝える構成は、閉鎖化が進む住宅地に対して明快な応答となっている。もっとその設計意図を深く反映できる可能性もあり、それ故か、その地域ならではの今後の営みの蓄積の更新のきっかけをも示す建築であり、高く評価したい。