すまいる愛知住宅賞 (第36回)
名古屋市住宅供給公社 理事長賞
土間縁側のいえ
農業を営まれる実家の敷地内に建つ築70年以上の大きな母屋を建て替え、ご夫婦2人の住宅の計画です。母屋の建て替えにあたり考えたことは、要望に合わせた新しい住宅を作るのではなく、「受け継ぎたいことは何か」「これから育みたいものは何か」でした。
周辺は田畑が広がるのどかな地域であり、風が吹けば土のにおいがするようなエリアです。この地に相応しい景色の一つになるように屋根の形や外壁などは違和感のないよう且つ旧母屋どっしりした立派な印象を受け継ぎたいと考えました。周辺の環境に対してはおおらかに開き、ご両親が暮らす敷地内の離れとはちょうどよい距離感を保つことも大切に計画しました。
母屋となるので法事が行える仏間のある和室を設けることは必要要件の一つでしたが、親族やお坊さんが玄関を通ることなく和室へ訪れることができるように庭からテラスを通って室内に繋がる土間縁側を設けました。
友人達が遊びに来やすい家としたいという要望もこのテラスと土間縁側によって叶えられたと思います。
お仏壇へはご両親も頻繁に手を合わせに来るでしょうが、お互いが気兼ねなく過ごせるように和室は離れ的な位置とし、LDKとは土間縁側によってゆるく繋がります。
この土間縁側を暮らしの中心とし、ウチとソト、プライベートとパブリックを分けたり繋いだりしながら、大屋根の下で人々が集まりコミュニテイを育み、光や風を感じて季節や天候の匂いや音を楽しみながら暮らせる、あっけらかんとした自由な住宅となりました。


設計者:アトリエウィ/宇佐美愛建築設計事務所 宇佐美 愛
講評:審査委員 谷村 留都
田園地帯にある実家の伝統的な形態や暮らし方など、残したい要素を守りながら現代の生活に合わせて建て替えた。一番のポイントは縁側を内部に取り込んで土間にしていることである。それにつながるLDKと合わせて居心地の良い空間が生まれた。階段の取り方にも工夫があり、2階との連続性などのびやかで無駄がない。素直で好感が持てる住まいであるが、南側のトップライトや窓の形態など光の取り方を抑えてもいいように思える。