すまいる愛知住宅賞 (第36回)
愛知県住宅供給公社 理事長賞
柔らかな間合い
建物は延べ床面積7.5坪。構造は木造で、90×90と90×150の角材のみで構成した軽量な架構とし、簡易な独立基礎でも耐震等級 3を確保している。床下は地面から30cmを開放しており、通気性が高く、設備更新やシロアリ対策にも有効である。
屋根は上下に30cm離れた二層構造で、上部の屋根は外気に開放されており、建物全体が日傘をさしたような状態になる。日射熱を直接伝えない仕組みにより、夏の熱ごもりを防ぎつつ、冬は低い太陽高度によりトップライトから日射を室内に取り込む。
暖房は家全体に敷設した遠赤外線床暖房のみ。熱源機器による温度ムラやヒートショックを抑え、温度差の少ない快適な環境をつくっている。空間の仕切りは最小限で、洗面・トイレ・浴室をまとめたスペースとその他を隔てる引戸が1枚あるのみで、その他の仕切りはシャワーカーテン等で対応している。引戸を開け放てば空間は一体化し、動線は極めてシンプルになる。
内部には、腰掛けるのにちょうどいい高さ40cmの畳小上がりを設け、布団を敷いて寝室として使える。日中は布団を畳めばL型の畳ベンチとなり、可動式のテーブルと組み合わせることで、居場所や作業スペースを自在に変えることができる。浴室も床をス ノコで嵩上げし、段差のない動線とした。
この住宅は、二拠点生活の一方の拠点であり、母の現在の居住と家族の将来的な移行を支えるための中間的な場でもある。移動式クレーンや足場を必要としないコンパクトな構法とすることで、 建設・解体の負担を抑え、敷地の次なる世代への引き継ぎを容易 にしている。
ローコストでありながら、断熱性・耐震性・可変性に優れた柔 軟な空間とし、暮らしの変化に対して無理なく対応できる「等身大の豊かな住まい」のあり方を模索した試みである。


設計者:ミヤタ建築事務所株式会社/宮田 智治
講評:審査委員 濱田 修
1間半×5間、床面積7.5坪の小さな白い箱は、地盤から切り離され浮遊しているようだ。屋根の小波板は本体から分離し、かつ外観は910ミリ間隔で軸組が真壁のように配置している事から分節と統合することで構築されているようだ。
内部は天井からの柔らかな光が拡散し穏やかな空間をつくり出している。さらに、移築等にも対応可能な構造であり、仮設住宅としての活用も視野に入りそうだ。ミニマリズムの中にも豊かな空間が広がっていた。