すまいる愛知住宅賞 (第36回)
愛知県知事賞
十塚の家
ガラス工場から住宅へのコンバージョンである。長く使われていない工場が1階にあり、その2階に施主家族が暮らしていたが、利便性を考慮し1階を住まいに改築することになった。夫婦が暮らす場所として、既存のような全体が見渡せる空間では住まいとしては単調で大味な空間になってしまうため、それぞれの場所が見え隠れし、様々な種類の光とスケールが交錯した抑揚のある住空間を計画した。建物南側 は奥に建つ親戚宅の動線を兼ねる必要があったため、半外部の通り土間を設け駐車及び周辺環境との緩衝空間とした。
新たに加えた壁は耐風圧を考慮した柱(40×150×5000)を455㎜の等間隔に配置し、道路 からの視線を遮断しながら自然光を採り入れる計画とした。本計画では図式的やインテリア的な設計手法ではなく、リノベーションにおける豊かな暮らしの作り方を探求した結果、空間の抑揚と自然光の重なりを用いた設計手法を用いることとなった。


設計者:佐々木勝敏建築設計事務所/佐々木 勝敏 藤野 なみか
講評:審査委員 野々川 光昭
市街地に建つ本住宅は、二階建て工場併用住宅の一階を工場から居住空間へと改修している。新たに建物内を貫いた通り土間は、隣地との間に柔らかな緩衝帯を生み出し、室内へ穏やかな光を導いている。5mの天井高と7mの柱スパンがもたらす大空間には、生活に寄り添う光の表情と空間の抑揚が的確に構成されている。「建替えか改修か」という施主の問いに対し、設計者は既存要素を尊重しつつ家族の記憶を継承し、建物の潜在力を引き出して住宅へと蘇らせた。その姿勢は、建築ストック活用に示唆を与える好例といえる。